薬物の使用を続けていると、法律に関係するいろいろな問題が生じます。それによって警察に逮捕されることも多々あります。このようなとき家族はどう対応すれば良いのでしょうか。
これに答えるには、そもそもこういった問題行動がどうして起きるのかを考える必要があります。薬物は再犯率が高いとはよく言われることですが、確かに薬物事件で何度警察に捕まっても懲りない人がいます。その間何度も周囲が尻拭いして、その度に「もう絶対やめる」と誓いますが、残念ながら長続きしないことが多いです。
このように薬物使用者が同じような問題行動を繰り返す原因は、本人の抱えている薬物依存症という病気であると考えられます。
したがって、本人の抱える問題の捉え方としては、表面の問題行動それ自体よりも、その背景にある薬物依存症に注目することが重要です。本人が起こす逮捕や借金の問題に周囲は振り回されがちですが、そのような出来事はあくまで表面的な現象に過ぎず、根本的な原因は薬物依存症という病気なのであり、このような構造に気づくことが何よりも大切です。本人が次々に起こす法律的な問題については弁護士等の専門家に任せるしかないでしょうが、家族や周囲はその現象の背後にある薬物依存症にどう対応するかという観点を持つことが重要になります。
薬物依存症について少し勉強すると、「本人を突き放したほうがいい」というアドバイスを受けることが多いと思います。
それまで借金の尻拭いなどをして本人の問題行動をいわば裏から支えてきた家族にとって、これは正しいアドバイスなのですが、ここで「突き放す」といっても、それは「何もしない」ことではありません。これまでのように安易に手を差し伸べないで、客観的に、少し離れたところからその状況を見守ることが要請されているのです。そうは言っても、「突き放す」という対応自体が、それまで家族が取っていた行動を大きく変えるものであり、なかなかできないことがあるのは事実です。
警察に捕まって面会に来て欲しい、差し入れして欲しい、借金が膨らんで肩代わりして欲しいといったお願いをされた時、「助けたほうがいいのか、突き放したほうがいいのか」――多くの家族がジレンマに陥ります。
家族が本人に一切援助しない場合、具体的にどうなるかはケースに即して専門家の助言を受けるのが安全ですが、逮捕拘留と借金に関して言えば、家族が本人と距離を置くような対応をしてもそれほど心配することはありません。
例えば、覚せい剤の問題で警察に逮捕された場合、周囲がまず第一に考えるべきは、「本人の刑を軽くするには」「自由を奪われている本人の苦痛をどうやって軽くしてやれば」ということよりも「本人がこれから薬物依存症から回復していくために、家族としてどのような対応をとればいいのか」ということなのです。
家族としての対応を学ぶ中で、薬物依存症の回復支援施設に本人をつなげようと意図することがあります。しかし本人に全くその気がなく、なかなかつながってくれないという経験を多くの家族がします。けれどもあきらめることはありません。ある時点では本人が回復のための施設につながらなくても、家族が本人に対して、「薬物依存症は病気である」「適切な対応をしない限り問題行動は繰り返す」「十分回復することが可能である」といった知識・情報を伝えておくのは極めて大切なことです。薬物依存症について知ってもらうことは、本人が病気から回復する第一歩なのだと考えましょう。
薬物依存症者が治療につながるきっかけには、いろいろなパターンがあります。一般的には「底つき」の状態になった時に治療につながることが多いと言われていますが、底つきといっても、人によって内容に違いがあります。例えば、仕事をクビになった、逮捕されたといったことで底つきになる人もいますし、刑務所に何度入ってもなかなか底つかない人もいます。
本人の状態をよく観察できるのは、まず第一に身近にいる家族ですが、本人の状態がわからない限り、本人が底つきの状態なのかどうか、治療につながる可能性が高いのかどうかもわかりません。施設に入所するのは本人の自主的な意思が必要ですが、そうは言っても最後のひと押しとして周りの人間の一言が必要な場合もあります。このような意味からも、家族としては、本人との関係を絶ってしまうというやり方で本人を突き放すのではなく、本人の様子をじっと見守りながら、回復のチャンスと思われる時期が来たら、本人が自分自身でその回復のチャンスを捕まえることができるような対応を準備することが望ましいと思います。本人の様子にはっきりとした変化が見られなくとも、辛抱強くチャンスを待つことです。
こういった取り組みにはどうしても長い時間がかかります。その間、自分たち家族だけで孤立して問題を抱え込むのではなく、家族向けの相談機関、自助グループに参加するなどして様々なヒントを得たり、薬物依存症からの回復を援助してくれる機関と連携・協力していくことにより、様々な事態に的確に対応でき、長期間の取り組みに耐えうる態勢を作ることができるでしょう。