サポーターたより

ウェブサイトリニューアルに添えて

東京ダルク ダルクホーム施設長 幸田実

東京の荒川区にダルクが開設されてから30年が過ぎ、その間に薬物の問題を抱えた多くの人たちがダルクを訪れました。その中には、入寮をして回復し、社会復帰をした人。入寮はしたものの途中でドロップアウトしてしまった人。「ダルクは素晴らしいところです。明日から通います」と言って二度と来なかった人。「私はここに来るほどひどくないので、皆さん頑張ってください」と言って帰ったにもかかわらず次の週に再び訪れた人。様々な人たちがダルクを訪れましたが、おそらくすべての人々に共通している思いは「まさか自分がダルクに来る羽目になるとは思っていなかった、できる事ならここにだけは来たくなかった」と言うのが本音だったのではないでしょうか。

皆が同じ思いだとしても、ダルクに留まる人と留まらない人がいます。人は皆違うのですからある意味当然のことです。しかし、多かれ少なかれ薬物の問題で『困っている』のは事実であるにもかかわらず、その違いはどこにあるのでしょうか?

私自身が初めてダルクを訪れた時も、まさか自分がここに来るとは思ってもいませんでしたから、ひと月くらいおとなしくしていれば後は何とかなるだろう、その後はおかしくならない程度に気を付けて薬を使えばいいんだからと内心では思っていました。

そして、どうせまた病院やカウンセリングで聞かれたことを同じように聞かれ、事情聴取の様な面接を受けるのだと思っていました。

ところが、面接をしたスタッフに聞かれたことは「どんな音楽が好きですか?」「ここではみんなニックネームで呼び合っていますからなんて呼んだらいいですか?」とか薬物には全く関係のない話ばかりで、カルテを書くことも誓約書にサインを求められることもなく雑談をした後、何の説明もなくNAミーティングに連れていかれました。そして「後は仲間がサポートしてくれますから大丈夫です」と言い残しスタッフは先に帰ってしまいました。

何がどうなっているのか? NAって一体何なのか? 帰りはどうすればいいのか? 何一つわかりませんでしたが常に誰かが声をかけてくれ、無事にダルクに戻り私が寝るベットに案内をしてくれました。

その後も特別に、オリエンテーションや面接があるわけでもなく、プログラムについて学習会や説明を受けることもないまま、ただ仲間の後をついて行くだけでしたが、一週間くらいが経つと、食事はどうしたらよいのか、誰がスタッフで誰が入寮者なのか、どんなスケジュールで動いたら良いのかがわかってきました。

リハビリ施設への入寮という事で、私自身身構えていたところもあったのですが、少し拍子抜けもしたところもあります。しかし、その雰囲気に良い意味での『いい加減さ』があり、私を「ここならやっていかれるかもしれない」と思わせてくれたのでした。

その後私はダルクでスタッフになり20数年が経ちますが、今も心掛けていることは、仲間一人ひとりの情報は『事情聴取』からではなく、ミーティングと日常生活の会話の中から得てゆこうという事です。おそらく大方の利用者は、親や家族に問い詰められ、病院で診断を受け、警察の取り調べでしぼられて、福祉事務所で今まで何度も聞かれた同じことを聞かれてきた人たちです。事情聴取を何度も繰り返してくると無意識のうちに自分にとって都合の悪い話を上手に避けて話すようになるのも薬物依存者の特徴ですから、ダルクに来てまで最初から聞き過ぎる必要はないというのが私たちの考えです。

自分が何をしてきて、その結果人生がどのようになってダルクに来ることになったのかを本当の意味で理解する必要があるのは、私たちダルクスタッフではなく当事者自身のはずです。ダルクは、薬物を『やめさせる』場所ではありませんし、誰かの人生を『変えさせる』場所でもありません。ここは、『新しい生き方の手がかりを見つける』場です。そして、残念なことにどんなに経験豊富なスタッフでもその答えを教えることはできません。誰もが自分自身で見つけなければならないのです

薬物依存からの回復とは到達点ではなく、探し続ける『プロセス』です。私たちにできることは、どこに向かえばよいのかを見つけるヒントを提供する事だけです。

このホームページを訪れてくれた本人家族関係者の皆さんにとって、東京ダルクの活動が、回復を歩み続けるため、あるいは回復を見守り続けるための一つの『ヒント』になれば幸いです。

掲載日:2018年2月10日