サポーターたより

チョロ松の回復(3)

アキモ

「よろしくおねがいします」

虚勢と緊張が7:3ぐらい混ざり合った表情で事務所の扉を開けたチョロ松を初めて見たとき、僕はあっけにとられました。と同時に笑みがこぼれました。
「よく来たね、まー座って」

その時、彼が身にまとっていた鮮やかな紫色のスーツだけは忘れることができません。胸の隙間からチラチラ覗くチェーンと三日月のようにウェーブした前髪も際立っていましたが、そのピンクがかった紫の華やかさに一瞬目を奪われました。

ダルクの日常にスーツ姿の人間を見かけることはありません。皆、冬はジャージかGパン、夏はTシャツに短パンですから。そんな日常にチョロ松の紫スーツは眩しすぎました。しかし悲しいことに、そこに感動はありません。なぜなら、その時彼はキラキラした歌舞伎町からやってきたわけではなく、ヒリヒリの精神科病棟からやってきたからです。思わず笑みがこぼれたのは、そんな彼の精いっぱいの努力(虚勢)を理解したからです。

(イタイなー、けど嫌いじゃないな、こういう人)
しかし、帰り際にはっきりと伝えました。
「チョロ松くん、次回からはGパンはいて来な。その格好、さすがに浮くわー」
「わっかりやしたー」

目の端っこでちらっと僕を見ながら、恥と怒りが相混ざった様子で帰っていきました。(もう二度とダルクに来てくれないかな)すこし言葉が直截すぎたかと反省しました。
それから僕は研修と称してアメリカにサーフィン旅行に行き、一か月後帰国すると、チョロ松は退院し、ダルクに入寮していました。

「あーよかった。入寮したんだー。もう来ないかと思ってたよ」
「あらためてよろしくお願いします。今度サーフィン連れて行ってください」
TシャツとGパンに着替えたチョロ松はすっかりダルクの一員となっていました。

掲載日:2023年2月9日