コロンゼ登場(5)
コロンゼ人生最後の精神科入院と書きましたが、薬物使用に関しては最後になりませんでした。薬物依存症は矯正施設や病院にいる間、あるいは普通の暮らしをしていても短期間なら薬物使用を止めることに多くの人が成功します。しかし、5年とか10年の長いスパンで見るとやめ続けるのは難しいと感じます。これを“意志”の問題として論じるなら、やめない人は本当に意志が強い人だといえます。そしてコロンゼはその中でも最強の部類に入るでしょう。普通に生きていればおよそ味わうことのない艱難辛苦をあれだけ経験して、なお使い続けるその意志の固さは、愚純を通り越してもはや修行僧、修道士の域に達しています。
退院後、コロンゼの病気はどん底に向かってさらに加速して行きます。東京ダルクにいても、2週間ともたず使い始め、再び現れるあのタコ踊りにみんなが悩まされます。仏の顔も三度まで、ついに施設長のミナスさんから退所を告げられました。
「俺たちがコロンゼにしてやれることはもう何もない。出ていってくれ」
カバンひとつで放り出されたコロンゼは、生活保護も打ち切られ、行くあてもなく、最後は荒川の土手に行き着きました。春の陽気にポカポカと照らされた土手の風景がまぶしすぎて、コロンゼは人目を避けるように橋の下に避難しました。するとどこから現れたのかわからないホームレスがひとりやって来て、「ほら」と弁当を恵んでくれました。寂しさと空腹で絶望的な状態だったコロンゼですが、とっさにそれを受け取ることができません。あまりにもちっぽけなプライドが、その優しい恵みを拒んだのです。(俺はホームレスとして生きられない)そう感じたコロンゼは、山谷のドヤ街に向かいました。そこで思いっきり薬を使おうと決めました。物も道具も用意して、何日かぶりにシャブを打ちました。