ダルク徒然草(5)1996年~
スタッフになった頃の忘れられない出来事があります。ある日スタッフや就労メンバーが暮らす一軒家が火事で全焼するという大事件が起こりました。
その日、リク(仮名)は一日の終わりに入浴しリビングでくつろいでいました。床に就こうと自室に戻ったところ「あつっ!」、あろうことかそこは辺り一面火の海となっていました。「火事だー!」と叫んで助けを求め、ミナスさん、ジョーさんが慌てて風呂の水を汲みに行きました。が、火の手が早く手の施しようがありませんでした。結局建物は全焼、幸いけが人は出ませんでしたが焼け出されたメンバーはその日から住むところを失いました。検証の結果、原因はリクのタバコの火の不始末でした。
翌日ミーティング場に現れたリクは着替えもせず、すす臭い匂いを放ちながら
「どうしようアキモさん、俺ダルク燃やしちゃったよー」と擦り寄ってきたので、
「たいへんだったなー、でもみんな無事で良かった。ところでブロン(咳止めシロップの乱用)飲んでんのか?」と問うと
「飲まずにはいらんないすよー」。
ちょうど火事の日から休暇でハワイにサーフィン旅行に行く予定だった施設長フミカズさんは、キャンセルして空港から引き返してきました。リクの様子を聞かれた私はとてもその事実を報告する気になれず
「まだ自分のしたことに向き合えてないみたいですよ」とやんわりごまかし、フミカズさんは探るように、
「もしあいつがブロン飲んでるとか、ふざけたことぬかしたらすぐ教えてくれ」と精一杯怒りを押し殺しながら呟きました。普段怒らないフミカズさんもこの時ばかりは冷静さを失っていたようです。その後しばらく、謝罪や賠償等の事後処理に追われ、ダルクに妙な緊張感が漂いました。しかし、年一回の休暇旅行に行かれなかったフミカズさんも、突然住むところがなくなったミナスさんもアスカさんも誰ひとり、リクを責める人はいませんでした。
リクはその後もクスリが止まらず、ダルクと刑務所を行ったり来たりしましたがダルクのスタッフたちは嫌な顔ひとつふたつみっつぐらいしましたが(笑)、毎回彼を受け入れました。「何度でもやり直しがきく」、助けを求められれば決して悪いようにはしない、依存症者にとってこの寛容さがダルクの魅力であり、同時にスタッフにとっては疲弊の種でした。
(次回に続く)